最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)1204号 判決 1960年7月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人上野開治の上告理由第一点について。
所論工事金の支払が被上告村の昭和二四年度歳出予算の執行行為にあたるとしても、本件手形は被上告会社が上告人から本件請負工事資金の融通を受けるため、被上告村と共同して振出したものであつて、本件工事金の支払のためではないことは原判示のとおりであるから、本件手形振出行為は新に予算外の義務を負担する行為であり、地方自治法九六条一項八号により同村議会の議決を要すること明らかである。論旨は独自の見解であつて採るを得ない。
同第二点について。
村長の行為といえども、予算外の義務の負担となる行為については地方自治法九六条一項八号に基き議会の議決を要すべきであり、右議決を欠くときは該行為は無権限の行為として無効と解すべきであつて、その行為が手形行為だからといつて別異に解すべき理由はない。所論は独自の見解にすぎないから採るを得ない。
同第三点について。
本件において代理権ありと信ずべき正当の事由ありや否は、村長の本件手形振出につき村議会の議決があつたか否かの点について問題となるのであるが、原判示によれば上告人は偽造と認定された作成名義人の調印なき議事録謄本(甲四号証)を示され不審を抱きながら右議決の有無の点につき特に調査した形跡はないというのであるから、上告人に過失ありと認めた原判決は正当であつて、論旨は理由がない。
同第四点について。
原判決挙示の証拠によれば、訴外梅野富士吉は本件手形の受取人ではなく単なる仲介人にすぎないと認定することが可能であり、所論は原審が適法にした右事実認定を争い、原判示にそわない事実に立脚して原審の正当な判断を攻撃するものであるから、採用し得ない。
同第五点について。
所論は原審が適法にした証拠の取捨判断、事実認定を非難するものであつて、採るを得ない。
同第六点について。
原審は、被上告村村長草野日出太郎は被上告会社と共に本件手形の共同振出人となつただけであつて、前記議決書謄本の偽造に関与したものということはできないとして上告人の損害賠償の請求を排斥したのは、結局右村長において上告人所論の如く欺罔行為を行つた事実を認め難いから右請求を容認できないとした趣旨であることが明らかであるから原判決には何ら所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)